1. はじめに
前回の記事では、ブラック・ショールズ方程式の導出を詳しく解説しました。
今回は、その方程式の解を求め、ヨーロピアン・コールオプションとプットオプションの価格公式 を導出していきます。
ブラック・ショールズ方程式は、数学的には偏微分方程式(PDE)の一種です。
この方程式を解くことで、オプション価格の解析的な公式を得ることができます。
本記事では、数式の展開をできるだけ高校数学レベルでも理解できるように、ステップごとに丁寧に解説していきます。
2. ブラック・ショールズ方程式の一般形
前回導出したブラック・ショールズ方程式を再掲します:
∂t∂V+21σ2S2∂S2∂2V+rS∂S∂V−rV=0
ここで、
- V(S,t):オプションの価格(S は株価, t は時間)
- r:リスクフリー金利
- σ:ボラティリティ(株価の変動率)
この方程式を解くには、いくつかの変数変換を行い、標準的な微分方程式の形に変形します。
3. 変数変換と方程式の簡単化
1. 変数変換:時間と株価のスケール調整
新しい変数を導入します。
τ=T−t
ここで、T はオプションの満期時刻です。
この変数変換により、τ は「満期までの残り時間」を表します。
また、以下のように変数 x を定義します。
x=lnS
この変数変換を行うと、株価 S に関する微分が次のように書き換えられます。
∂S∂V=S1∂x∂V,∂S2∂2V=S21(∂x2∂2V−∂x∂V)
これをブラック・ショールズ方程式に代入すると、V(x,τ) についての新しい微分方程式が得られます。
4. ブラック・ショールズ公式の導出
この方程式を解析的に解くと、コールオプションの価格 C(S,t) は次の式で表されます。
C=SN(d1)−Ke−r(T−t)N(d2)
プットオプションの価格 P(S,t) は以下の式になります。
P=Ke−r(T−t)N(−d2)−SN(−d1)
ここで、
d1=σT−tln(S/K)+(r+21σ2)(T−t)
d2=σT−tln(S/K)+(r−21σ2)(T−t)
また、N(d) は標準正規分布の累積分布関数(CDF) を表します。
5. 数式の直感的な意味
ブラック・ショールズ公式の各要素が持つ意味を考えてみましょう。
-
d1 の意味
- 株価がどの程度「行使価格よりも高くなる」確率を表す指標。
- d1 が大きいほど、オプションを行使する可能性が高い。
-
d2 の意味
- 将来の株価が行使価格 K を超える確率を現在の視点から評価したもの。
- d1 よりもボラティリティ分だけ小さい値になる。
-
N(d1) と N(d2)
- それぞれ「コールオプションが価値を持つ確率」に関連している。
- N(d1) はオプションのデルタ(ヘッジ比率)とも関係。
-
割引因子 e−r(T−t) の役割
- 将来の確定金額を現在価値に割り引く役割を持つ。
- 無リスク金利の影響を考慮するために必要。
6. まとめと次回予告
本記事では、
- ブラック・ショールズ方程式を解くための変数変換
- コールオプション・プットオプションの価格公式の導出
- 数式の直感的な意味
について詳しく解説しました。
次回は、
- ブラック・ショールズモデルの応用とギリシャ指標(デルタ、ガンマなど)
- ブラック・ショールズモデルの限界と改良モデル
について詳しく説明します。