BS方程式の解とオプション価格の計算

ブラック・ショールズモデル

日付:2025年3月12日

ブラック・ショールズ方程式の解を求め、ヨーロピアン・コールオプションとプットオプションの価格公式を導出していきます。

1. はじめに

前回の記事では、ブラック・ショールズ方程式の導出を詳しく解説しました。
今回は、その方程式の解を求め、ヨーロピアン・コールオプションとプットオプションの価格公式 を導出していきます。

ブラック・ショールズ方程式は、数学的には偏微分方程式(PDE)の一種です。
この方程式を解くことで、オプション価格の解析的な公式を得ることができます。

本記事では、数式の展開をできるだけ高校数学レベルでも理解できるように、ステップごとに丁寧に解説していきます。

2. ブラック・ショールズ方程式の一般形

前回導出したブラック・ショールズ方程式を再掲します:

Vt+12σ2S22VS2+rSVSrV=0\frac{\partial V}{\partial t} + \frac{1}{2} \sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} + r S \frac{\partial V}{\partial S} - r V = 0

ここで、

  • V(S,t)V(S, t):オプションの価格(SS は株価, tt は時間)
  • rr:リスクフリー金利
  • σ\sigma:ボラティリティ(株価の変動率)

この方程式を解くには、いくつかの変数変換を行い、標準的な微分方程式の形に変形します。

3. 変数変換と方程式の簡単化

1. 変数変換:時間と株価のスケール調整

新しい変数を導入します。

τ=Tt\tau = T - t

ここで、TT はオプションの満期時刻です。
この変数変換により、τ\tau は「満期までの残り時間」を表します。

また、以下のように変数 xx を定義します。

x=lnSx = \ln S

この変数変換を行うと、株価 SS に関する微分が次のように書き換えられます。

VS=1SVx,2VS2=1S2(2Vx2Vx)\frac{\partial V}{\partial S} = \frac{1}{S} \frac{\partial V}{\partial x}, \quad \frac{\partial^2 V}{\partial S^2} = \frac{1}{S^2} \left( \frac{\partial^2 V}{\partial x^2} - \frac{\partial V}{\partial x} \right)

これをブラック・ショールズ方程式に代入すると、V(x,τ)V(x, \tau) についての新しい微分方程式が得られます。

4. ブラック・ショールズ公式の導出

この方程式を解析的に解くと、コールオプションの価格 C(S,t)C(S, t) は次の式で表されます。

C=SN(d1)Ker(Tt)N(d2)C = S N(d_1) - K e^{-r(T - t)} N(d_2)

プットオプションの価格 P(S,t)P(S, t) は以下の式になります。

P=Ker(Tt)N(d2)SN(d1)P = K e^{-r(T - t)} N(-d_2) - S N(-d_1)

ここで、

d1=ln(S/K)+(r+12σ2)(Tt)σTtd_1 = \frac{\ln(S/K) + (r + \frac{1}{2} \sigma^2) (T - t)}{\sigma \sqrt{T - t}} d2=ln(S/K)+(r12σ2)(Tt)σTtd_2 = \frac{\ln(S/K) + (r - \frac{1}{2} \sigma^2) (T - t)}{\sigma \sqrt{T - t}}

また、N(d)N(d)標準正規分布の累積分布関数(CDF) を表します。

5. 数式の直感的な意味

ブラック・ショールズ公式の各要素が持つ意味を考えてみましょう。

  1. d1d_1 の意味
    • 株価がどの程度「行使価格よりも高くなる」確率を表す指標。
    • d1d_1 が大きいほど、オプションを行使する可能性が高い。
  2. d2d_2 の意味
    • 将来の株価が行使価格 KK を超える確率を現在の視点から評価したもの。
    • d1d_1 よりもボラティリティ分だけ小さい値になる。
  3. N(d1)N(d_1)N(d2)N(d_2)
    • それぞれ「コールオプションが価値を持つ確率」に関連している。
    • N(d1)N(d_1) はオプションのデルタ(ヘッジ比率)とも関係。
  4. 割引因子 er(Tt)e^{-r(T - t)} の役割
    • 将来の確定金額を現在価値に割り引く役割を持つ。
    • 無リスク金利の影響を考慮するために必要。

6. まとめと次回予告

本記事では、

  • ブラック・ショールズ方程式を解くための変数変換
  • コールオプション・プットオプションの価格公式の導出
  • 数式の直感的な意味

について詳しく解説しました。

次回は、

  • ブラック・ショールズモデルの応用とギリシャ指標(デルタ、ガンマなど)
  • ブラック・ショールズモデルの限界と改良モデル

について詳しく説明します。