制度の今後と実務への備え

仕入税額控除の基礎

日付:2025年3月26日

インボイス制度の本格運用や税制改正の動向を踏まえ、仕入税額控除制度は今後さらに重要性を増します。本記事では、制度の今後の展望と、事業者が今から取り組むべき実務対応についてまとめます。

目 次

はじめに

仕入税額控除制度は、消費税の正確な納税と公正な税負担のために不可欠な制度です。
インボイス制度の導入をきっかけに、今後さらにその重要性が増すと考えられます。

本記事では、仕入税額控除をめぐる今後の展望と、事業者が実務で備えておくべきポイントについて整理します。

1. インボイス制度の完全適用に向けて

インボイス制度は 2023 年 10 月に導入され、現在は経過措置期間中です。
2029 年にはすべての免税事業者との取引が控除対象外となる見込みであり、それまでに以下の対応が必要です:

  • すべての仕入先のインボイス登録状況を確認
  • 非登録事業者との取引条件の見直し
  • 社内の請求書チェック体制の強化
  • インボイスの電子保存と検索体制の整備

インボイス制度が完全適用となることで、帳簿の信頼性や保存体制の整備は一層重要になります。

2. 電子帳簿保存法との連動

仕入税額控除の実務においては、電子帳簿保存法の要件との整合性も無視できません。
特に以下の 2 点が重要です:

  • 電子取引データ(PDF 請求書等)の保存要件:2024 年以降、紙出力での保存は原則不可。
    電子保存が義務化されています。
  • 検索機能や改ざん防止措置:請求書をフォルダに入れるだけでは不十分。
    ファイル名ルールや管理システムの導入が求められます。

電子帳簿保存法とインボイス制度を連動させて、帳簿管理の見直しを進めましょう。

3. AI・クラウドによる経理の自動化

今後、仕入税額控除の業務も含めて、AI やクラウドサービスを活用した経理の自動化が進んでいきます。
実際、以下のような動きが広がっています:

  • 会計ソフトと連携したインボイス読取・仕訳機能
  • 電子請求書の自動分類と保存
  • 消費税区分の自動判定

人手不足や経理担当者の業務負担を軽減する手段として、こうしたデジタル化は避けて通れません。

4. 中小事業者への影響と支援制度

中小企業や個人事業主にとって、制度対応は負担が大きいものです。
国税庁や中小企業庁では、以下のような支援を行っています:

  • インボイス制度説明会・動画配信
  • IT 導入補助金(会計ソフト・インボイス対応システム等)
  • 税理士による無料相談・アドバイザー派遣

制度に対する「情報不足」が最大のリスクとなりがちです。
積極的に情報収集し、支援制度を活用して乗り切りましょう。

5. 経理部門に求められる役割の変化

従来の「記帳業務」から、今後の経理部門は次のような役割を担うようになります:

  • 経営判断のためのデータ提供(売上構成・仕入割合など)
  • システム導入の主導
  • 税務調査対応のための内部統制体制の構築

仕入税額控除は単なる消費税の処理ではなく、経営管理と深く関わる業務となっていくでしょう。

まとめ

仕入税額控除制度は今後ますます制度的にも実務的にも進化していきます。
事業者が対応すべきことは、制度理解だけでなく、デジタル化、社内体制の整備、外部支援の活用まで多岐にわたります。

長期的な視点で、制度の変化に柔軟に対応できる経理体制を整えていきましょう。

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