記憶素子とクロック

しくみから学ぶ半導体の世界
No.818
工学

日付:2025年4月10日

コンピュータはどうやって時間的に動いている? フリップフロップとクロック信号の連携で実現される記憶と制御のしくみを紹介します。

目 次

はじめに

前回は、トランジスタがどのように集まって集積回路(IC)となり、論理回路やプロセッサを構成しているかを学びました。
今回は、その回路が 「どうやって時間的に動くのか?」 という観点から、記憶素子(フリップフロップ)クロック信号 の役割に注目します。

記憶素子とは?

論理回路は「0」か「1」を扱うものですが、その情報を一時的に保持する装置が必要になります。
これが「記憶素子(memory element)」です。

フリップフロップ(Flip-Flop)

基本的な記憶素子で、1 ビットの情報を保持できる装置です。

代表例:

  • SR フリップフロップ:Set と Reset で状態を保持/初期化
  • D フリップフロップ:1 つの入力 D をクロックタイミングで記憶する

Qnext=D(クロックの立ち上がりで)Q_{next} = D \quad \text{(クロックの立ち上がりで)}

つまり、クロックのタイミングで情報を 1 ビットずつ保持・更新します。

クロックとは?

クロック(clock)とは、論理回路の動作のタイミングを制御するための周期的な信号です。

  • デジタル回路はクロックが"カチッ、カチッ"と進むたびに動作する
  • 高速な CPU では、クロック周波数が数 GHz(1 秒間に 10 億回以上)にもなる

クロックによって:

  • データの入力・処理・出力のタイミングが揃う
  • 順序制御(シーケンシャル)な動作が実現

記憶素子とクロックの連携

  • フリップフロップはクロックとともに情報を更新
  • これにより、状態遷移やカウンタ、レジスタといった構造が作られる

この仕組みによって、コンピュータの「演算」「記憶」「制御」が実現しています。

たとえば:

  • レジスタ → 一時的にデータを保持
  • プログラムカウンタ → 次に実行する命令の位置を記憶
  • 状態遷移回路 → ゲーム機のキャラクターや信号機の動作

クロックの分配と消費電力

クロックは回路全体に信号を配る必要があるため、

  • 消費電力のかなりの部分を占める
  • 高速化するほど電力が増える(高周波駆動)

このため、省電力設計では:

  • クロックゲーティング
  • クロックドメインの分離

といった技術が使われます。

まとめ

  • 記憶素子(フリップフロップ)は、1 ビットの情報を保持する基本装置
  • クロック信号によって、論理回路は時間的に動作する
  • フリップフロップとクロックの連携が、状態遷移・制御・演算の基盤
  • クロックは高速動作とともに電力消費の要因にもなる

次回は、メモリ(RAM・ROM など)の構造と動作原理について解説していきます。