塾産業に見る逆転の経済構造

利益と誠実さのバランス

日付:2025年3月27日

成績優秀者が無料で通い、普通の子が支えるという構造は、教育ビジネスにおける典型的なジレンマ。この逆転構造の中に潜む矛盾と誠実さの揺らぎを掘り下げます。

目 次

はじめに

学習塾の広告には「東大合格 ○ 名」「全国模試 ○ 位」などの実績が並びます。これらの実績を出すことが、塾の信頼や集客に直結するのは事実です。

しかし、その「実績」を支えているのは誰なのか?という視点で見ると、塾産業の構造に潜む、ある種の「逆転現象」が浮かび上がってきます。

成績が良い子ほどお金を払わない?

学力上位層の子どもは、塾から見れば「広告塔」です。
彼らが結果を出すことが、次の顧客を呼び込む原動力になる。
だからこそ、

  • 授業料無料
  • 奨学金制度
  • 特別指導枠

といった優遇策が用意されます。

一方、いわゆる「普通」の成績の子たちは、広告にはなりにくい。
しかし、塾の経営を支える存在として欠かせません。
多くの場合、彼らが正規の授業料を払い続けることで、塾は運営を継続できます。

この構造は、教育におけるある種の「逆進性(regressivity)」を生み出しています。
つまり、「教育にもっともお金を払うのは、成果の出にくい層」だという現象です。

顧客に夢を見せる構造の危うさ

もちろん塾は、「成績が普通の子」を切り捨てているわけではありません。
「あなたにも可能性がある」「この塾なら伸びる」という期待を持ってもらうことは、集客にも、指導意欲にもつながります。

しかし、もしその期待が過大なものであったり、「残ることで損をする可能性」が見えているのに伝えないままであれば、

それは本当に誠実なビジネスなのでしょうか?

「夢を与えること」と「現実から目を背けさせること」は、紙一重です。

では、どうすればいいのか?

ビジネスモデルとしての塾を全否定するつもりはありません。
むしろ、この構造をきちんと認識した上で、

  • 教室ごとに「成果型」「支援型」「探求型」などスタイルを分ける
  • 成績ではなく「成長指標」に応じた評価軸を設ける
  • 撤退や方向転換を促すアドバイスも選択肢に含める

といった設計があってもよいのではないかと感じています。

全員を合格させることはできなくても、全員にとって「誠実な選択肢」を提示することはできる。
そのためには、塾側の視点だけでなく、家庭や本人の状況にも踏み込んだ支援体制が求められます。

次回予告

次回は「選別と支援の境界線」と題して、どこまでが正当な選別で、どこからが不誠実になるのか、その線引きについて考えていきます。

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