新素材・新構造・新コンピューティング

しくみから学ぶ半導体の世界
No.823
工学

日付:2025年4月10日

シリコンの次に来るものは? グラフェン、GaN、量子計算…。新しい材料や構造、そしてまったく新しい情報処理の可能性を展望します。

目 次

はじめに

前回は、ムーアの法則と微細化の限界、そしてそれを超えるための技術的挑戦(FinFET、GAA、3D 積層など)について紹介しました。
今回はその延長として、「シリコンの次」を担うかもしれない材料や構造、そしてまったく新しい計算原理の可能性について見ていきます。

なぜ「シリコン」では足りなくなるのか?

シリコンはこれまでの半導体技術の中核でしたが、

  • 微細化限界(トンネル効果や熱問題)
  • キャリア移動度や電子速度の制限

などから、性能や効率の限界が見え始めています。
そのため、材料そのものの革新が模索されています。

シリコンに代わる・補完する材料たち

◼ シリコンゲルマニウム(SiGe)

  • シリコンよりも電子移動度が高く、高速回路向き
  • 既存プロセスと互換性が高く、CPU や通信チップで利用

◼ ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)

  • 非常に高速で動作(高移動度)
  • 光通信・高周波通信(5G や衛星通信)などに使用

◼ 窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)

  • 高電圧・高温環境に強い → パワー半導体で注目
  • EV、スマートグリッド、産業機器などで活躍中

◼ グラフェン・遷移金属ジカルコゲニド(TMD)

  • 単原子層の材料(2D マテリアル)
  • 柔軟・高速・省電力な素子開発に期待

次世代アーキテクチャの可能性

◼ スピントロニクス

  • 電子の「スピン」を使って情報を表現 → スピン RAMなどの新しいメモリに
  • 磁性体や量子特性を利用した高密度・非揮発性デバイス

◼ ニューロモルフィック(脳型)計算

  • ニューロン・シナプスを模した回路設計
  • 省電力な AI 専用チップに応用されつつある

◼ 量子コンピュータ

  • 「0 と 1」ではなく、量子ビット(qubit) による重ね合わせと干渉
  • 超並列計算・暗号解読・材料設計などで期待される
  • まだ実用化には技術的課題多数

半導体から情報処理技術全体へ

これらの新材料・新構造・新演算技術は、

  • 高性能計算(HPC)
  • AI(人工知能)
  • IoT・ロボティクス
    など、社会インフラの根本を支える要素になっていくと考えられます。

まとめ

  • シリコンだけでは、性能・効率・拡張性の面で限界が見え始めている
  • 新材料(GaN、SiC、2D 材料など)が分野ごとに台頭
  • スピントロニクスやニューロモルフィック、量子計算といった新しいパラダイムも始動
  • 「半導体」は今や、素材・構造・演算原理すべての革新の最前線にある