「逆行列」について

線形代数の基礎
No.313
数学

日付:2025年2月20日

逆行列の基本概念、数学的な定義、具体例、計算方法について解説し、Python を用いた計算例も紹介します。

目 次

はじめに

逆行列(Inverse Matrix)は、線形代数における重要な概念の一つです。
逆行列は、行列の「逆数」と考えることができ、行列を用いた方程式の解法や、データサイエンス、コンピュータグラフィックスなどの応用において広く使われます。

本記事では、逆行列の基本概念、数学的な定義、具体例、計算方法を解説し、Python を用いた計算例を紹介します。

1. 逆行列とは?

逆行列とは、ある行列 AA に対して、以下の関係を満たす行列 A1A^{-1} のことを指します。

AA1=A1A=IA A^{-1} = A^{-1} A = I

ここで、II は単位行列(Identity Matrix)です。

  • 逆行列が存在する行列を 正則行列(Regular Matrix) と呼びます。
  • 逆行列が存在しない行列は 特異行列(Singular Matrix) です。

逆行列は、正方行列(n×nn \times n)のみに定義される ため、非正方行列には一般的な逆行列は存在しません。

2. 逆行列の求め方

逆行列を求める方法はいくつかあります。

2×2 行列の逆行列

2×2 の行列 AA の逆行列は、以下の公式で求められます。

A=[abcd]A = \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix}

その逆行列は、行列式 det(A)\det(A) を用いて次のように計算できます。

A1=1det(A)[dbca]A^{-1} = \frac{1}{\det(A)} \begin{bmatrix} d & -b \\ -c & a \end{bmatrix}

ただし、行列式が 0 の場合、逆行列は存在しない ことに注意が必要です。

3×3 以上の行列の逆行列

3×3 以上の行列の逆行列は、以下の方法で求めることができます。

  1. 行列式(Determinant)が 0 でないことを確認
  2. 余因子行列(Cofactor Matrix)を求める
  3. 余因子行列の転置(随伴行列 Adjugate)を求める
  4. 行列式の逆数を掛ける

この方法を用いることで、一般的な正方行列の逆行列を求めることができます。

3. Python を用いた逆行列の計算

Python の numpy ライブラリを用いると、逆行列を簡単に求めることができます。

2×2 行列の逆行列

PYTHON
import numpy as np # 2×2 行列 A = np.array([[3, 2], [1, 4]]) # 逆行列の計算 A_inv = np.linalg.inv(A) print("逆行列:") print(A_inv)

3×3 行列の逆行列

PYTHON
# 3×3 行列 B = np.array([[2, -1, 3], [1, 0, -2], [4, 1, 1]]) # 逆行列の計算 B_inv = np.linalg.inv(B) print("逆行列:") print(B_inv)

特異行列の確認(逆行列が存在しない場合)

PYTHON
# 行列式が 0 の場合(特異行列) C = np.array([[1, 2], [2, 4]]) det_C = np.linalg.det(C) if np.isclose(det_C, 0): print("この行列は特異行列であり、逆行列を持ちません。") else: C_inv = np.linalg.inv(C) print("逆行列:") print(C_inv)

計算結果

2×2 行列の逆行列

A1=[0.40.20.10.3]A^{-1} = \begin{bmatrix} 0.4 & -0.2 \\ -0.1 & 0.3 \end{bmatrix}

3×3 行列の逆行列

B1=[0.1250.250.1250.56250.6250.43750.06250.3750.0625]B^{-1} = \begin{bmatrix} 0.125 & 0.25 & 0.125 \\ -0.5625 & -0.625 & 0.4375 \\ 0.0625 & -0.375 & 0.0625 \end{bmatrix}

特異行列(逆行列なし)

行列 CC行列式が 0 のため、逆行列は存在しません。

4. 逆行列の性質

逆行列には、以下のような重要な性質があります。

  1. 行列の積に関する逆行列の性質
    (AB)1=B1A1(AB)^{-1} = B^{-1} A^{-1}
  2. 単位行列の逆行列は単位行列
    I1=II^{-1} = I
  3. 転置行列の逆行列
    (AT)1=(A1)T(A^T)^{-1} = (A^{-1})^T
  4. 逆行列の逆行列は元の行列
    (A1)1=A(A^{-1})^{-1} = A

5. まとめ

  • 逆行列とは、行列の積が単位行列となる行列のこと。
  • 逆行列は正方行列にのみ定義され、行列式が 0 の場合は存在しない。
  • 2×2 の逆行列は公式を用いて簡単に求められる。
  • Python を用いると、大規模な行列の逆行列を効率的に計算できる。
  • 逆行列の性質を理解することで、線形代数の応用範囲が広がる。

逆行列は、データ解析、機械学習、コンピュータグラフィックスなど、多くの分野で利用されています。